2025年12月13日、サロン・テッセラにて開催された倉田莉奈さんのピアノリサイタル《鏡に映るラヴェル》は、私たち「みのりの眼」にとっても特別な夜となりました。
このリサイタルは、モーリス・ラヴェル生誕150年の節目にあたり、彼の音楽を多角的に照らし出そうと企画したものです。80席ほどの親密な空間で、音楽と一対一で向き合うような、まさに「耳の奥にまで光が届く」ような体験がありました。演奏者の集中力と作品の選定が相まって、深く心に残る時間となったことを、主催者として改めて記しておきたいと思います。
この夜のプログラムでは、ラヴェルの師であるフォーレの《ノクターン第6番》から始まり、ラヴェルの弟子であり親友であったロラン=マニュエルの稀少な《ラヴェルを讃えて あるいはヴィロフレーの夕べ》(日本初演)、そしてラヴェル自身の《鏡》へと続きました。後半では、ラヴェルの小品《プレリュード》がさりげない序章として置かれ、そこからメインのルシアン・ガルバンによる《弦楽四重奏曲》のピアノ独奏編曲版へと至ります。19世紀末から20世紀前半にかけてのフランス音楽の連なりと、ラヴェルという存在を中心に据えた独創的で挑戦的な構成でした。
特にロラン=マニュエルの《ラヴェルを讃えて》については、数年前に、ご遺族のご協力もあり、モーリス・ラヴェル友の会(フランス)から直筆譜のコピーをご提供いただいたご縁があり、この度ようやく実演にまで結びついたことを、主催者として大変嬉しく思っております。
そしてアンコールでは、ラヴェルと生涯にわたって親交の深かったピアニスト、リカルド・ビニェスの《メヌエット・スペクトラル(モーリス・ラヴェルを偲んで)》が演奏されました。これはまさに、プログラム全体に優しく蓋をするような、美しく静かな余韻でした。
ご来場くださったお客様の“生の声”を、許可をいただいたうえで以下にご紹介しております。
ぜひご覧ください。
倉田莉奈さんのピアノによる「鏡に映るラヴェル」と題した演奏会を聴いてきました。
モーリス・ラヴェルの組曲「鏡」と弦楽四重奏曲のピアノ編曲版をメインに据えたプログラムです。
「鏡」はそれぞれにタイトルのついた5曲からなる30分ほどの組曲です。各曲の性格がみな異なり、曲ごとでも細かい音の連なりが微妙に色合いを変えていくところ、ラヴェルの魅力が詰まっています。その曲を倉田さんは親密で慈しむように、かといって華やかさも失うことなく弾かれていました。
会場の小さなサロンに響くピアノの音が心地よく、耳を澄ませ、音の流れに聴き入りました。
「ああ、倉田さんってほんとにラヴェルお好きなんだなあ」と。
後半には「前奏曲」を文字通り前奏曲として弾いてからピアノ版弦楽四重奏曲へ。
ピアノ版を聴くのは初めてでしたがこれがとても聴き応えがありました。ピアノの響きによってこの曲の持つしっかりした骨格がよりはっきりとして、また各声部を意識して区別するように弾かれていたのかどうかはわかりませんが、立体的でまるでひとつのピアノ・ソナタを聴いたように感じました。とはいえ楽器の音色の違いはもとより、ピッチカートとカンタービレとの対比の妙や終楽章での弦の軋みといった原曲の楽しさは望むべくもありません。
倉田さんはプログラムノートに「魅力をさらに凝縮したミニマルな形として、この曲の新たな一面をお見せできたら」と書かれていますが、たぶんそのあたりを意識してこの曲をピアノで弾く最良のかたちを模索したのではないでしょうか。その意欲が十分に伝わった演奏だったように思います。
他に、ラヴェルの師であるフォーレと弟子のロラン・マニュエルの曲を1曲ずつ、それにアンコールで、作曲者名を聞き漏らしましたがラヴェルのオマージュの曲を1曲。
ラヴェルってたのしいよ、と改めて気づかせてくれた演奏会でした。



