先週金曜日、室内楽シリーズ《四つの肖像 ― ブラームスと、彼をめぐる三人の音楽家たち》vol.1
「交差のはじまり ― 1854年、シューマン夫妻と若きブラームス」は、無事に終演いたしました。
ご来場くださった皆さま、本当にありがとうございました。
本シリーズは、ブラームスのピアノ三重奏曲全4曲を軸に、ロベルト・シューマン、クララ・シューマン、そしてテオドール・キルヒナーという、ブラームスをめぐる三人の音楽家たちの作品を交差させながら、19世紀ドイツ・ロマン派の室内楽を立体的に聴いていく試みです。
第1回となる今回は、1854年という一年に焦点を当てました。
シューマン夫妻との出会い、若きブラームスの創作、そしてその後の長い時間を経て見つめ直される作品の姿。
単に名曲を並べるのではなく、作品と作品のあいだにある人間関係や時間の流れを、音楽そのものを通じて感じていただくプログラムとなりました。
前半では、ロベルト・シューマンのヴァイオリン・ソナタ第1番を、ピアノ三重奏版でお聴きいただきました。
原曲のもつ切迫した情感が、三つの楽器によって新たな陰影を帯び、シューマンの内面にある揺らぎや熱を、より身近に感じていただけたのではないかと思います。
続くクララ・シューマンのピアノ三重奏曲では、知的な構築感としなやかな歌心が美しく響き合いました。
単に「シューマンの妻」としてではなく、ひとりの作曲家としてのクララの確かな存在感が、改めて伝わる時間になったように思います。
そして後半は、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番、1854年初稿版。
晩年の改訂版とは異なる、若きブラームスならではの溢れるような歌、情熱、そして時に過剰なほどのロマンティックな広がりが、ヤンネ舘野さん、鈴木皓矢さん、鶴澤奏さんの三人によって、鮮やかに立ち上がりました。
三人のアンサンブルは、回を重ねるごとに深まりを増しているように感じます。
それぞれの音色と個性がはっきりとありながら、互いに聴き合い、支え合い、ひとつの音楽として呼吸していく。
その充実が、会場の空気にも確かに伝わっていたように思います。
終演後には、たくさんの温かいお声をいただきました。
ご来場くださったお客様の“生の声”を、許可をいただいたうえで以下にご紹介いたします。ぜひご覧ください。
みのりの眼主催の公演は、いつも知的好奇心をくすぐるプログラムに惹かれて足を運ぶ機会が多く、またこのご縁で知り、推しになった三人のリサイタル、外すわけには参りません。
今回も凝ったプログラムでしたが、とりわけ嬉しかったのが、偏愛するブラームスのピアノ三重奏曲第1番の初稿!
晩年の円熟期の改訂版よりも、私はイケメンだった若きブラームスの歌心あふれる初稿の方が断然好きです。
柔のヤンネさんと剛の鈴木さんにぴったり寄り添いながら、デリカシーあふれる、しかし確固とした音楽を練り上げる鶴澤さん。
まさに極上のひとときでした。
第1回と銘打たれていますので、今後が楽しみです。
プログラム全体を通じて、みのりの眼はいつもそうですが、プログラムのコンテクストが明快であること、それに沿った聴取を自然と行えることは、他にない強みであると思います。
また、演奏に関しても、この三名によるアンサンブルは相互の理解が進んだのか、機械的な意味ではなく、音楽的な意味で精度が上がっているように思います。
鶴澤さんの響きへの感覚の深さ——例えばカデンツでどの音を強調するのか、または塊として捉えるのか。
鈴木さんのアンサンブルでの立ち回りの自在さ——引くべきところと出るところの自在な感覚。
ヤンネさんの得難い音色と和声感。
それぞれの良さが、無理なく出ているように思われました。
Apple Musicなどで拾い聴きしているヨーロッパの若手音楽家と較べても、劣るところは特にありません。
むしろ、和声の色彩の豊かさにおいては、水準以上を示していると感じました。
このチクルスは4回を予定しており、次回は12月に開催されるとのことです。
・J.ブラームス/T.キルヒナー編:弦楽六重奏曲第1番 変ロ長調 Op.18(ピアノ三重奏版)
・J.ブラームス:ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87
次回は、ギャンブル狂で憎めないキルヒナーによる、弦楽六重奏曲の編曲を聴くことができます。
リストも認めたその手腕が、あの名曲をどのように響かせるのか、演奏とともにとても楽しみにしています。
次回の《四つの肖像》vol.2では、いよいよ本シリーズのもうひとりの重要人物、テオドール・キルヒナーが本格的に登場します。
ブラームスの弦楽六重奏曲第1番を、キルヒナーがピアノ三重奏へと編み直した版。
そしてブラームス自身のピアノ三重奏曲第2番。
同じブラームスの室内楽でありながら、編成が変わることで何が見え、何が聴こえてくるのか。
次回も、作品そのものの魅力と、その背後にある人と人とのつながりを、演奏を通してお届けしてまいります。
ご来場くださった皆さま、そして温かいご感想をお寄せくださった皆さまに、心より御礼申し上げます。
今後とも《四つの肖像》シリーズにお付き合いいただけましたら幸いです。



