トム・ジョンソン（1939–2024）は、アメリカに生まれ、後年はパリを拠点に活動した作曲家です。ミニマル・ミュージックの流れにありながら、彼の作品はしばしばその枠を越え、「もっとも論理的な作曲家」「数と音の詩人」とも評されてきました。シンプルな素材を用いながら、論理的な構造と直感的な美しさ、そしてどこかユーモラスな軽やかさを併せ持つその音楽は、聴く者に思索と発見の喜びを与えてくれます。

本公演では、そんなジョンソンの音楽を長年愛し、自身のレパートリーとしてきたピアニスト七條恵子が、トム・ジョンソンへの深い敬意とともに、その作品世界を丁寧に描き出します。共演には、オランダを拠点に国際的に活躍するフルーティスト、ネッド・マックガウエン。二人の信頼に裏打ちされたデュオによって、数と静寂のあいだに揺れるジョンソンの音楽が、今、東京で鳴り響きます。

プログラムは、ピアノの音が空間に“置かれる”という発想が鮮烈な《Spaces》、論理的なメロディ操作が展開される《Rational Melodies》（フルート独奏）、声のみで数学的カノンを織りなす《Counting Duets》（七條＆マックガウエンによる二声）、そしてジョンソンの代表作であり、時間と響きの哲学的瞑想ともいえる《An Hour for Piano》。全編を通して、構造と感性が出会う瞬間の美しさを、じっくりと味わっていただけるプログラムです。

会場は、親密な空間で音に集中できる三軒茶屋のサロン・テッセラ。日常から少し離れたところで、静かで奥深い“耳の冒険”へ、どうぞお出かけください。