みのりの眼

閑喜弦介 ソロ・ギター・リサイタル in 京都(2024.10.23)

JR東海テレビCM「そうだ京都、行こう。」やNHK大河ドラマ「光る君へ」などにもその演奏が使用されるという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの閑喜弦介。彼の京都では初となる本格的なソロ・リサイタルを開催します。

閑喜はクラシックのソリストとしてだけではなくジャズや現代音楽やアンビエントなどジャンルを越えた演奏活動を繰り広げており、さらには作曲家/編曲家としても活躍しています。

本公演は、先日大好評を得ためぐろパーシモンホール小ホールでの東京公演の内容を踏まえて開催するものです。

東京では、前半にバッハ/武満徹/ラヴェル、後半はビートルズ/ジャズスタンダード/オリジナルという、音楽家としての彼の魅力が詰まった素晴らしいプログラムでした。
果たして京都はここからさらにどのように変化するのか? ご期待ください!

全席自由 一般:3,500円/ 学生:1,500円(9月5日から、e+、TEKET にて発売開始予定)
日程:2024.10.23(水)18:30開演(18:00開場)
場所:京都文化博物館別館ホール

 

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ルクーとその時代 vol.1 レポート

おかげさまで「ルクーとその時代 vol.1 」 無事に終了しました。

ご来場いただいたお客さま、そして応援いただきました皆さま、本当にありがとうございました!

今回もまた知られざる作品が、特に世界初演のものも含まれ、それらが素晴らしい音楽家たちによって演奏されました。
貴重な演奏会だったと思います。

おいでいただきましたお客さまの生の声を、許可をいただき、ここに転載します。ぜひご覧ください。

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9月29日(日)やなか音楽ホールへ「ギョーム・ルクーとその時代1」に。

ルクー没後130年記念演奏会で、曲目はセザール・フランク初期の「3つの協奏的トリオ 第二番」、ラヴェルの「遺作ソナタ」とルクー「チェロソナタ」。これは一時間近くかかりながら最終楽章がほぼ失われていて、今回作曲家の大脇滉平さんが補筆完成させたもの。

さて、ワーグナーが心の闇を描く音楽の解像度を爆上げさせてから、次の世代の作曲家はその闇をどう止揚するか苦しんだと思う。
実際に若きラヴェルとルクーはこれらのソナタを完成させることは出来なかった。

しかし大脇さんはその闇と苦悶を受けとめながら、調和に至る音楽を、精緻な和声分析を駆使しつつ描き切ってみせた。研究家としても作曲家としても偉業としか言いようがない。

陰惨な響きの続くソナタが、暗い空の切れ目の光のような長調の和声に到り、フランクのコラールを思わせる響きに解決されていく過程はまさに圧巻だった。

こうして聴いていると、フランクが若き作曲家たちに尊崇されたのも分る気がした。
メンデルスゾーンを思わせる若書きのトリオ、こうしたシンプルで陽性のルーツを持っていた老音楽家は、闇に拮抗する神父のように見えたに違いない。
それに演奏者の皆さん好演です(ピアノ 蓜島啓介、Vn 山本佳輝、Vc 山根風仁 さん)。
色彩感に富むタッチと音色で、どの曲も変化に溢れる作品として響く。素晴らしい室内楽の夕べを有難うございました!

 

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ルクーとその時代 vol.1(2024.9.29)

<ギヨーム・ルクー没後130年記念コンサート vol.1>

19世紀末、作曲家セザール・フランクを「Père Franck (父フランク)」と慕う作曲家達がいました。
名前を挙げるならば、ダンディ、デュパルク、ショーソン、ピエルネなど、錚々たる顔ぶれが並びます。
しかし彼らの中で、「天才」の形容詞が最も似つかわしかったのがギヨーム・ルクー(1870-1894) です。

にもかかわらず現在ルクーの作品の多くはほとんど聴かれる機会は稀といえます。
兄弟子だったヴァンサン・ダンディの言葉を借りれば、ルクーが「気質においてほとんど天才」でありながらも、
「その資質を完全な形で世に示す前に24歳で死んでしまった」ためなのです。

今年はそのルクーが亡くなってから130年が経ちました。
それを機に今回ルクーの重要な作品を、ルクーとの縁が認めれられる音楽家の作品と並べて聴いていただける機会を設けました。
この2回のコンサートでルクーの「天才性」をより深く感じていただければと思います。

【プログラム】
・フランク:協奏的ピアノ三重奏曲第2番
・ラヴェル:ヴァイオリンソナタ(遺作)
・ルクー(補筆:大脇滉平):チェロソナタ
*やむを得ない場合、曲目が変更になる場合があります。

【出演】
山本佳輝(ヴァイオリン)
山根風仁(チェロ)
蓜島啓介(ピアノ)

全席自由 一般:4,000円、ペア:7,000円(7月下旬から、e+、TEKET にて発売開始予定)
日程:2024.9.29(日)15:00開演(14:30開場)
場所:やなか音楽ホール

 

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倉田莉奈 コンセプチュアルリサイタル『白昼夢』 レポート

おかげさまで「倉田莉奈 コンセプチュアルリサイタル『白昼夢』 」 無事に終了しました。

ご来場いただいたお客さま、そして応援いただきました皆さま、本当にありがとうございました!

これまで5回開催してきましたシリーズの集大成に相応しい内容ではなかったでしょうか。

そして今回発売しました、これまで5回のライヴ録音から再構成しましたファーストアルバム『白昼夢』でも倉田さんの研ぎ澄まされた美意識を感じていただけることと思います。ぜひアルバムの方もお聞きください。

おいでいただきましたお客さまの生の声を、許可をいただき、ここに転載します。ぜひご覧ください。

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本日のコンサート「倉田莉奈 コンセプチュアル・ピアノリサイタル」のプログラム、
これらの曲を休憩や拍手無しの70分ほどの時間で一気に弾ききるコンサートでした。

 

この形式の演奏会は毎回普通のコンサートを聴いている時とかなり異なった感想を持つのだけれども、特に今回はそれぞれの作曲家の曲に対する想いが強く印象に残るものでした。

 

倉田さんの演奏の最大の良さは曲の持つ様式美や曲想を大切にして聴かせてくれることだと思う。
12人の作曲家それぞれの個性と倉田さんのピアノ演奏がピッタリと合致しているので通しで聴いていても単調に感じることなくあっという間の70分だった。

 

選曲と順番も工夫が感じられスティーブ・ジョブズではないが、点と線が綺麗につながっていて小川を流れる水が次第に大河となるような感覚があった。

 

また初めて聴く曲も多く、ラフマニノフの楽興の時はシューベルトに渡り、シューベルトの感傷的なワルツはショパンの有名なワルツの原流を感じさせてくれたりと聴き進めていく時間中に色々なことが頭の中を駆け巡るようだった。

 

ロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ブラームスとそれぞれ人間が深く音楽で繋がっていたんだなぁとそれぞれの曲を聴いている間中そんなことばかり考えていた。

 

人間×作品×演奏が時や場所、言語を超えて今を生きる私たちの心に話しかけてきてくれるそんな素敵な9月23日の午後のひと時でした。

 

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倉田莉奈コンセプチュアルピアノリサイタル「白昼夢」(2024.9.23)

<倉田莉奈ファーストアルバム「白昼夢」発売記念>

昨年10月まで5回にわたって開催した「コンセプチュアルピアノリサイタル」シリーズ。
毎回録音していたそれらの音源から選りすぐりのテイクを「白昼夢」という新たなテーマのもとに編みなおし、
この度、待望の記念すべきファースト・アルバムをリリースすることになりました。

それを記念して同じテーマで、アルバム収録曲とはほぼ変えたヴァージョンのリサイタルを開催します。
おなじみの70分ノンストップで繰り広げられる「白昼夢」の世界。
ぜひ体験しにおいでください!

なお、当日はアルバムを先行発売します。

【プログラム】
・ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
・フランク(バウアー編):前奏曲、フーガと変奏曲
・ラフマニノフ:楽興の時 第5番
・ケージ:トイピアノのための組曲より
・シューマン:ピアノソナタ第2番より
・ベリオ:水のピアノ
ほか *やむを得ない場合、曲目が変更になる場合があります。

全席指定 一般:4,000円 学生:2,000円(8月7日から、e+、TEKET にて発売開始予定)
日程:2024.9.23(祝)14:00開演(13:30開場)
場所:めぐろパーシモンホール小ホール

 

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徳永真一郎&松田弦『平均律ギター曲集』全曲演奏会 vol.1(2024.8.18)

※7月29日速報 学生特別価格 1,500円を新たに設定しました!ご予約はお問い合わせまでお願いします。

<イタリアとカステルヌオーヴォ=テデスコ>

精力的に演奏活動を続けている実力派ギタリスト、徳永真一郎と松田弦。

みのりの眼企画のコンサートでも、昨年のセルジオ・アサド『夏の庭』全曲演奏など
過去2回、いずれもユニークで意欲的なプログラムに挑んできました。

そして今回から、大曲にして難曲、カステルヌオーヴォ=テデスコ『平均律ギター曲集』を
毎回定めるテーマに従ったプログラムに組み込んで、4回に分けて全曲演奏します。

1回目の今回は「イタリアとC=テデスコ」と題して、テデスコの出身地であるイタリアにちなんだ作品と合わせて披露いたします。

ご期待ください!

【プログラム】
・カステルヌオーヴォ=テデスコ:『平均律ギター曲集』第1番~第6番
・J.S.バッハ(マルキオーネ編):イタリア協奏曲
・カルッリ:「3つのデュオ Op.62」より第3番
*やむを得ない場合、曲目が変更になる場合があります。

全席指定 一般:4,500円/ 学生:2,000円(6月14日から、e+、TEKET にて発売開始予定)
日程:2024.8.18(日)14:00開演(13:30開場)
場所:めぐろパーシモンホール小ホール
後援:株式会社現代ギター社

 

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フランス近代音楽に流れるシューマンのポエジー レポート

おかげさまで「フォーレとサン=サーンス ~フランス近代音楽に流れるシューマンのポエジー~」 無事に終了しました。

ご来場いただいたお客さま、そして応援いただきました皆さま、本当にありがとうございました!

知られざる名曲の数々が素晴らしい音楽家たちによって演奏される貴重な演奏会だったと思います。

おいでいただきましたお客さまの生の声を、許可をいただき、ここに転載します。ぜひご覧ください。

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5月29日は、五反田文化センターにて、「フォーレとサン=サーンス フランス近代音楽に流れるシューマンのポエジー」と題されたコンサートに行きました。ここのところ、フランスづいております😊

下記のプログラムは中々マニアックですが、これは何としても聴かなければなるまい!と思わせるものがありました。

シューマン カノン形式の6つの練習曲
フォーレ ピアノ三重奏曲

シューマン 民謡風組曲より第3曲
サン=サーンス トリプティークより第1曲
サン=サーンス ピアノ三重奏曲第2番 

 

最初のシューマンは、足鍵盤付きピアノのために作曲されたのをピアノ三重奏に編曲したものとのこと。
原曲も全く聴いたことがありませんでしたが、カノンによる練習曲などというと、対位法を駆使した難解な作品かと思ったら、ロマンの香り高い、シューマンならではの作風で一安心。
この編曲により、ヴァイオリン、チェロ、ピアノが音域を変えながら明瞭に旋律をなぞることとなり、下世話な例えながら、あたかも男女の親密な語らいの様々なありようを聴くようで、原曲よりもロマンチックな雰囲気がより一層濃厚に感じられたのではないかと思いました。魅力的な作品、演奏だったですね。

 

フォーレの作品は、どれを聴いても、現実を遊離した高雅な雰囲気を感じさせてくれますが、晩年のこの作品は、甘美さよりも厳粛さが際立ち、一層孤高の美しさを湛えているように感じます。
今回の演奏は、それでも、厳しさよりは労わるような優しさと、さらには逞しさも感じさせる美しい演奏だったと思います。
いずれにしても、やはり、フォーレはいいですね!

 

後半は、二重奏による小品を2曲の後、サン=サーンスの殆ど知られていない三重奏曲でしたが、これは素晴らしかったです!
5楽章という当時の室内楽では珍しい構成で、緩徐楽章を真ん中に置いたシンメトリー構成は、まるでバルトークみたいです。
冒頭の激しいピアノに乗せられた弦のメロディから、これは!と思わせるものがありました。
熱いパッションと憧れに満ちた第1楽章、スケルツォないし舞曲的な第2、第4楽章に挟まれた第3楽章は夢見るように美しく、終楽章ではフーガも用いられ、全曲を通じ、全くダレることなく終始魅力的な楽想が連続する傑作だと思います。
ヤンネ 舘野、鈴木 皓矢、鶴澤 奏の3人による演奏はこの作品においても見事でした!

 

この日のコンサートは、シューマンに始まりましたが、ドイツならではと思われるシューマンのロマンティシズムですが、フランス人にとってもその魅力には抗し難いものがあったのかと思います。ドビュッシーのように敢えてアンチワグネリズムを実践しながらもドイツを意識しないではいられなかったように、フランス音楽界に対するドイツロマンティシズムの影響は大きく、フォーレにもサン=サーンスにも、確かに共通するポエジーが感じられたように思います。

 

意義深いコンサートでした。

 

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フランス近代音楽に流れるシューマンのポエジー(2024.5.29)

<サン=サーンスの魅力 <真>発見シリーズ vol.1>
名曲「白鳥」を含む作品、『動物の謝肉祭』で有名なサン=サーンス。彼はそれ以外にもたくさんの作品を残しました。そこには知られざる宝のような名曲がたくさん埋まっているのです。
「みのりの眼」では、毎回定めるテーマに沿って関連のある他の作曲家の作品と組み合わせたプログラムのコンサートをシリーズで開催し、サン=サーンスの真の魅力をみなさんと一緒にみつけていきたいと思います。
1回目となる今回は、サン=サーンスと彼の弟子であり親友であったフォーレというフランス近代音楽の主流に位置する二人の作品とともに、彼らが共感の思いを抱いていたシューマンの作品も合わせて聴くことで、それらに通底する詩情を感じていただきたいと思います。

【プログラム】
・シューマン:カノン形式の6つの練習曲
・フォーレ:ピアノ三重奏曲
・サン=サーンス:ピアノ三重奏曲第2番
ほか

全席自由 一般:4,000円/ 学生:2,000円
日程:2024.5.29(水)昼の部:14:00開演(13:30開場)、夜の部:19:00開演(18:30開場)
場所:品川区立五反田文化センター音楽ホール

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加藤訓子ソロリサイタルシリーズ in サルビアホール vol.2 レポート

おかげさまで「加藤訓子「B A C H」J.S. Bach series vol. 1」 無事に終了しました。

ご来場いただいたお客さま、そして応援いただきました皆さま、本当にありがとうございました!

最高の響きを誇るサルビアホールに広がる加藤訓子さんの演奏は、そのポテンシャルを最大限引き出すものだったと思います。

おいでいただきましまお客さまの生の声を、許可をいただき、ここに転載します。ぜひご覧ください。

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J・S・バッハ

平均律クラヴィーア曲集第1巻第一番プレリュード

無伴奏チェロ組曲第1番ト長調

無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番イ長調

無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番ニ短調よりシャコンヌ

加藤氏は、身体全体をしなやかに使って弾く。その姿から、バッハの音楽を真正面から、全身で受け止めようとしていることをひしひしと感じた。打楽器は奏者の身体の動きがそのまま音になる部分が大きい。がっつりと音楽に取り組む身振りがダイレクトに音として立ちあらわれる。

実は、加藤氏のバッハ作品のCDはリリースされてまもなく聴いていたのだけれど、その演奏スタイルに違和感を覚えていた。なぜこれほどに大きな身振りが必要なのか。今回、実演に接してようやく身振りの意味合いがわかった。すると、音楽の中へどんどん入っていくことができた。

一曲目の「プレリュード」も、無伴奏チェロ組曲も、どことなく土の香りがした。マリンバの起源はアフリカにあるという話に、響きの面からリアリティを感じた。ただ、「土」といっても、土俗的というような意味合いではない。掘り起こしたばかりの土の、しっとりと水分を含んだ香り。ちぎれた草の根の匂いも混じった香り。豊かな滋味を含んだ土の、複雑な香りである。加藤氏の演奏は大地に足をつき、そこから得た力でバッハの世界とがっつり組み合っているように感じる。

ヴァイオリン・ソナタの第1楽章や第4楽章では硬めのマレットを使い、無伴奏チェロ組曲とは全く異なる響きを聴かせる。他方、3楽章のアンダンテでは再び柔らかめのマレットを使い、今夜初めて本格的なトレモロを使っていた。響きが楽想と見事に調和している。

今夜の演奏では、概してトレモロの使用を抑制し、自然減衰する単音の響きを重視していると思った。この楽器自体のシンプルな音で勝負しようという姿勢が潔い。

最後の「シャコンヌ」も実に気迫の籠った演奏だった。演奏後の挨拶で、「シャコンヌ」は初披露だったと語られた。コロナ禍による外出制限の中、演奏の機会も失われ、音楽に向かう気持ちを失っていた折、たまたま耳にしたブゾーニによる編曲にインスパイアされたものだという。

この作品は従来さまざまなトランスクリプションがあるのだけれど、改めてなんと複雑な音楽かと感嘆した。実に魅力的なモチーフを得たバッハは、書き進めるうちに筆が止まらなくなったのではなかろつかと、演奏を聴きつつ想像した。作曲家は自身の持つリソースを限界まで使い倒すことによって、ひとつの宇宙を構築してしまった。バッハは、実は編成を固定するつもりはなかったー途中からそのつもりがなくなってしまったーのかもしれない。もしかするとヴァイオリンのために書いたのは、楽想をリアライズするのに最も効率的だったというプラクティカルな理由だったのではなどとも妄想した。

アンコールにヴァイオリン・ソナタ第3番のラルゴ。

加藤氏の奏でるバッハ作品は一音一音に深く着実な思索が感じられる。単に楽器を置き換えたなどというものとは全く異なる音楽である。しかし、過度に学究的になることがない。無伴奏チェロ組曲のメヌエットやジーグなどではリズムが息づいていて舞曲集であることを思い出させてくれる。味わいのある響きにいつまでも包まれていたいと思った。

今後も引き続き取り組むというバッハが楽しみである。できる限り追いかけたい。

(2024年3月5日 鶴見区民文化センター サルビアホール 音楽ホール)

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加藤訓子 ソロリサイタルシリーズ vol.2(2024.3.5)

「バッハ無伴奏マリンバの為の作品集」は、エストニア・タルトにあるヤン二教会との出会いに始まりました。
2013年「カントウス」を記念してアルヴォ・ペルトの生まれたエストニアに呼ばれ、演奏したのが13世紀の古い土の香りのする煉瓦造りの教会、ヤンニ教会です。
シンプルで飾り気がなく、壁の両脇の上部には埴輪のようなテラコッタが埋め込まれ、祭壇には小さな20センチほどのイエス様があるだけです。
半分は戦争で壊されてしまったであろう修復の痕もあり、何故か天井が木で平になっていました。
そこで音を出した瞬間、「なんと幸せな音であろうか」と感じると同時に、客席側ではマリンバの減衰してゆく音が綺麗に長くつながってゆきます。
演奏後「ここで何かを残したい」「もっとここで演奏したい、ずっとここでマリンバを弾いていたい」そんな気持ちが止まず、
教会に申し入れをし、レコーディング実現の運びとなりました。
そこからバッハを弾くことを決め、何がマリンバに合うか?従来のマリンバのサウンドを越えるべく、どんな表現の可能性があるかを念頭に、
無伴奏チェロ組曲から1・3・5番、そして無伴奏ヴァイオリンソナタとパルティータからソナタ全曲を選び、一音一音に魂を込めて仕上げて行きました。
それは大きな岩壁を登って行くが如く膨大な時間との戦い、バッハの時代になかったマリンバという楽器における表現の未知なる境地へ向かって、
そして自分自身への限界へのチャレンジでもありました。
延べ1ヶ月を越える滞在の中、毎日夕方4時に教会の鍵を受け取ってから朝5〜6時まで、毎日来る日も来る日もバッハを弾き続ける、
苦しさもありながらこんなに幸せな時間はありません。こうしてできあがった全33トラック、157分に及ぶ「無伴奏マリンバのための作品集」です。

以上は、アルバム『J.S.バッハ:マリンバのための無伴奏作品集』2017年リリースの際に加藤自身が寄せた文章です。
今回はこのアルバムから選りすぐった作品を演奏します。
最高の音響を誇るサルビアホールで再度、伝説でなるだろうパフォーマンスをぜひ見に来てください!

【プログラム】
・平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番プレリュードハ長調
・無伴奏チェロ組曲第1番ト長調
・無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番イ長調 全曲
・無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番ニ短調より「シャコンヌ」

全席自由 前売:5,000円/ 当日:5,500円
日程:2024.3.5(火) 19:00開演(18:30開場)
場所:鶴見区民文化センターサルビアホール 音楽ホール

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